「インフレ」と聞くと、
理由ははっきりしないのに、
胸の奥が少しざわつく。
値上げ、生活費の上昇、将来への不安…。
ニュースを見ているうちに、
「インフレ=悪いもの」
そんなイメージが、いつの間にか心に残っている方も多いと思います。
僕は証券会社にいた頃、
資産運用や老後資金の相談を通して、
インフレに対する不安の声を、何度も聞いてきました。
「難しい話は分からないけれど、
なんとなく、このままでいい気がしないんです」
その感覚は、とても自然なものです。
ただ、ここで一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
実はインフレには、
いくつかの種類があり、役割も違うということ。
そして、すべてが「悪いインフレ」ではありません。
怖さの正体が分からないままでは、
不安だけが大きくなってしまいますが、
仕組みを知ると、見え方は大きく変わります。
この記事では、
- インフレにはどんな種類があるのか
- インフレの中にあるメリットと注意点
- なぜゴールドが一緒に語られるのか
を、専門用語をできるだけ使わず、
落ち着いて整理していきます。
読み終えたとき、
「必要以上に怖がらなくていい」
そう感じてもらえたら嬉しいです。
そもそもインフレとは何かを、もう一度

ここで一度、
インフレという言葉を、落ち着いて整理しておきましょう。
インフレ(インフレーション)とは、
モノやサービスの価格が全体として上がり、
結果的に、お金の「使える力」が下がっていく現象
のことです。
このとき、よく混同されがちなのが、
- 特定の商品が値上がりすること
- 経済全体で物価が上がっていくこと
の違いです。
たとえば、天候不順で野菜の値段が上がる。
これは一時的な価格変動で、インフレとは少し意味が違います。
一方で、
食品、日用品、光熱費、サービス料金まで、
広く、じわじわと上がっていく
この状態が続くとき、
それを経済全体のインフレと呼びます。
ここで大切なのは、
インフレは「モノが高くなる話」では終わらない、という点です。
仮に、
手元に100万円の預金があり、
数字は何も変わらないままでも、
物価が毎年少しずつ上がっていけば、
その100万円で買えるモノやサービスの量は、
確実に減っていきます。
つまり、
お金の額面ではなく、
お金の「役割」が変わっていく
これが、インフレの本質です。
誰かがあなたの貯金を奪ったわけではありません。
極端な出来事が起きたわけでもありません。
ただ、
昨日までと同じ感覚でお金を持っていると、
少しずつ噛み合わなくなっていく
それが、インフレが私たちの生活に与える影響です。
この前提を理解しておくと、
なぜインフレの話になると、
「資産の置き場所」が話題になるのか。
その理由が、自然と見えてきます。
インフレの主な「種類」を知っておこう

インフレと一口に言っても、
実は「起きる理由」によって性格は大きく変わります。
ここを分けて考えないと、
インフレ=すべて怖いもの
という誤解が生まれやすくなります。
まずは代表的なタイプを、
今の暮らしに引き寄せながら見ていきましょう。
① デマンドプルインフレ(需要インフレ)
デマンドプルインフレとは、
「買いたい人が増えることで起きるインフレ」です。
景気が良くなり、
- 給料が上がる
- 仕事が増える
- 消費に前向きになる
こうした流れの中で、
モノやサービスがよく売れ、
結果として価格が上がっていきます。
このタイプのインフレは、
経済が健全に回っているサイン
と考えられることが多く、
賃金上昇を伴いやすいのが特徴です。
生活の負担は増えても、
収入も一緒に増えていくため、
体感としての苦しさは比較的少ないインフレと言えます。
② コストプッシュインフレ(押し上げ型インフレ)
一方で、今の日本で強く意識されているのが、
コストプッシュインフレです。
これは、
- 原材料価格の上昇
- エネルギー価格の上昇
- 円安による輸入コストの増加
といった、
企業側の負担増がきっかけで起きるインフレです。
企業は努力で吸収しようとしますが、
限界を超えると、価格に転嫁せざるを得ません。
この場合、
物価は上がるのに、
給料はすぐには増えない
という状況が起きやすくなります。
その結果、
家計の負担感が強くなり、
「インフレ=苦しい」
という印象が残りやすくなるのです。
③ 「良いインフレ」と「悪いインフレ」の分かれ目
インフレはよく、
- 良いインフレ
- 悪いインフレ
と分けて語られますが、
判断の軸は、とてもシンプルです。
賃金の伸びが、物価の上昇に追いついているか
これが分かれ目です。
たとえば、
- 物価が3%上がり
- 給料も3%前後上がる
のであれば、
生活のバランスは大きく崩れません。
これが「良いインフレ」です。
一方で、
- 物価だけが上がり
- 収入がほとんど変わらない
状態が続くと、
生活は確実に苦しくなります。
これが「悪いインフレ」と呼ばれるものです。
ここを整理しておかないと、
ニュースで「インフレ」という言葉を聞くたびに、
必要以上の不安を抱えてしまいます。
インフレには「メリット」もある

ここまで読むと、
インフレは悪い面ばかりに見えるかもしれません。
でも実は、
経済全体で見ると、
インフレには次のような側面もあります。
① 経済が動きやすくなる
「どうせなら、早めに使おう」
という心理が働くことで、
- 消費が動く
- 投資が進む
結果として、
経済全体が停滞しにくくなります。
② 借金の実質負担が軽くなる
インフレが進むと、
過去に借りたお金の価値は、
相対的に小さくなっていきます。
住宅ローンのように、
長期間かけて返済する借入を持つ人にとっては、
必ずしもマイナスだけではありません。
③ デフレから抜け出すきっかけになる
長くデフレが続くと、
- 給料が上がらない
- モノが売れない
- 経済が縮こまる
という状態に陥りやすくなります。
適度なインフレは、
こうした停滞から抜け出すための、
ひとつのきっかけにもなります。
それでも「資産面」で注意が必要な理由

ここまで見てきたように、
インフレは経済全体で見れば、
必ずしも悪いことばかりではありません。
ただ、資産という視点で見ると、
ひとつ、はっきりしていることがあります。
現金を多く持っている人ほど、
インフレの影響を静かに受けやすい
という点です。
なぜなら、インフレの影響は、
「額面」ではなく「使える力」に出てくるからです。
たとえば、
銀行預金で300万円を持っているとします。
数字だけ見れば、
1年後も、5年後も、300万円は300万円です。
しかし、もし物価が年3%前後で上がり続けた場合、
同じ300万円で買えるモノやサービスの量は、
少しずつ減っていきます。
10年後には、
感覚としては220〜230万円程度の力しか
持たなくなっている可能性があります。
ここで大切なのは、
お金が減ったわけではないという点です。
ただ、
「守っているつもりだったものが、
気づかないうちに目減りしていた」
そんな状態が起きやすい。
これが、インフレ時代における
「資産面での注意点」です。
なぜインフレの話になると、ゴールドが出てくるのか

ここで登場するのが、
金(ゴールド)という存在です。
金がインフレの文脈で語られる理由は、
とてもシンプルです。
- 実物として存在する資産であること
- 国や中央銀行が自由に増やせないこと
- どの国でも価値が通じること
この性質を持つ資産は、
実はそれほど多くありません。
通貨は、
経済や政策によって量が増減します。
でも金は、
「通貨の事情」とは切り離された場所にある
資産です。
そのため、
- インフレが続くとき
- 通貨価値に不安が出てきたとき
価値を一時的に逃がす場所
として、歴史的に選ばれてきました。
ここで誤解してほしくないのは、
「インフレだから、今すぐ金を買う」
という話ではない、ということです。
大切なのは、
- 価値を円だけに集中させない
- 価値の基準をひとつ増やしておく
という考え方。
ゴールドは、
そのためのとても静かな選択肢です。
増やすために焦って持つものではなく、
「前提が変わったときにも慌てないため」に、
そっと置いておく。
それが、インフレ時代に語られる
ゴールドの本当の立ち位置だと、僕は思います。
まとめ|インフレを「正しく怖がる」ために

インフレは、必要以上に恐れるものではありません。
ただひとつ、はっきりしているのは、
仕組みを知らないまま、
「なんとなく大丈夫だろう」と放置すること
これが、将来の不安をいちばん大きくしてしまう、という点です。
インフレは、ある日突然すべてを奪う出来事ではありません。
気づかれないように、
少しずつ、前提を変えていく現象です。
たとえば、
物価が年3%前後で上がる状態が続くと、
10年後には「同じ金額」でできることは、
体感として2〜3割ほど減っていきます。
これは誰かの失敗ではなく、
インフレという仕組みそのものが持つ性質です。
だからこそ大切なのは、
未来を正確に当てにいくことではなく、
前提が変わっても慌てない状態をつくっておくこと
だと、僕は思っています。
そのためにできることは、決して難しくありません。
- インフレには種類があることを知る
- メリットとデメリットを切り分けて考える
- 資産の価値を、ひとつの場所に集中させすぎない
それだけで、
インフレという言葉の見え方は、
ずいぶん落ち着いたものになります。
ゴールド(金)は、
そのための選択肢のひとつです。
必ず持たなければならないものでも、
急いで買うものでもありません。
ただ、
通貨の価値が変わるかもしれない、
という前提に対して、
もうひとつの「軸」を用意しておく
その考え方が必要だと感じたとき、
静かに思い出してもらえれば十分な資産です。
インフレを「怖がりすぎない」ためには、
まず「正しく知る」こと。
そして、
焦らず、でも目をそらさず、
自分なりの守り方を考えていくこと。
それが、
インフレ時代を生きるうえでの、
いちばん現実的で、心にやさしい向き合い方だと、僕は思います。
参考情報・出典
- 日本銀行|物価とインフレの仕組み
https://www.boj.or.jp - World Gold Council(世界金協会)
https://www.gold.org - IMF|Inflation Explained
https://www.imf.org
※本記事は情報提供を目的としたものであり、
特定の投資行動や成果を保証するものではありません。
投資判断は、ご自身の状況や価値観に照らして行ってください。


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